蔵の街とちぎ 大毘盧遮那殿 満福寺(満福密寺)

閑話休題

マスクの元 は日本古来の宗教マナー

令和2年10月2日
 アメリカのトランプ大統領が、大統領選挙直前のだいじな時期に、新型コロナウィルスに感染しました。医療先進国アメリカのことですから、大統領の身は大ごとにはならず早期に復帰するでしょうが、新型コロナウィルスを軽く見てマスクもあまり着けなかった結果です。
 思えば、西欧にはマスクを着ける習慣がない国もあるくらいで、私たち日本人の衛生観念からしたら今回日本のマスク習慣に倣う国が世界に広がりました。新型コロナウィルスの国内感染がはじまった2~3月、テレビに出演した感染症専門医の約半数は、マスクの効用について、ウィルスが極小のため普通のマスク(布製)は布をすり抜けてしまうのでほとんど役に立たないと言っていました。
 しかし、その後ウィルス対策加工をしたマスクなども次第に普及し、今では感染拡大防止の切り札にさえなりつつあります。先進国のなかで、日本が死亡者数がとびぬけて少ないのは、もちろん専門医師をはじめとする医療機関の現場スタッフの献身的な尽力のおかげですが、国民全般の高い衛生観念、とくにセキの出る風邪やインフルエンザにかかった時は自発的にマスクをする習慣も大きく貢献しているのではないでしょうか。伝染性病原菌感染症で何回もひどい想いをした先人たちが残してくれた良き衛生マナーのおかげです。

 ところで、このマスク。その元をたどれば日本古来の宗教で使われる神前具あるいは仏前具です。神道で言えば神官たちがマスクのように使う「口覆(くちおおい)」「覆面(ふくめん)」。大嘗祭・神嘗祭などの大きな儀式から日常的な儀式に至るまで、神道の儀式で「神饌」と言われる酒・米・水・塩・魚・鳥・海藻・野菜・果物・餅などの供物を運ぶ人が、自分の息(不浄)が神への供え物にかからないようにするため、口を覆うもの。和紙と麻ひもでつくります。
 仏教では、例えば真言宗で言えば「覆面(ふくめん)」で、例えば高野山の奥の院では、毎日朝の六時と午前十時半に、「御供所(ごくしょ)」でつくられたお大師様への食事を「御廟」の大師宝前に運ぶ際、食事の入った「お櫃(ひつ)」(大きな木箱)をかつぐ二人の若い僧侶はかならず「覆面」をします。その二人の前を先導するのが「維那(ゆいな)」と言われる高僧です。「覆面」は和紙とこより(ひもの部分は多様)でつくります。

神事用マスク

お櫃をかつぐ「覆面」を付けた若い僧侶と、先導する高僧「維那」